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JRの逆転敗訴判決

トップページ » JRの逆転敗訴判決

2016年3月2日

民法714条1項は,「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。

 認知症にり患したAさん(当時91歳)がJRの駅構内の線路に立ち入りJRの運行する列車に衝突して死亡した事故に関し,JRが,Aさんの奥様とご長男に対し,民法714条1項に基づき(すなわち,Aさんの奥様とご長男が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に該当するとして),損害の賠償を求めた事件につき,最高際は次のように述べてJRの請求を退けました。

 

① 「精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう『責任無能力者を監督する法定の義務を負う者』に当たるとすることはできない

② 「もっとも,法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである(最高裁昭和56年(オ)第1154号同58年2月24日第一小法廷判決・裁判集民事138号217頁参照)」

③ 「その上で,ある者が,精神障害者に関し,このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは,その者自身の生活状況や心身の状況などとともに,精神障害者との親族関係の有無・濃淡,同居の有無その他の日常的な接触の程度,精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情,精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容,これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して,その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである。」

④Aさんの奥様についても,ご長男についても,監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められない。

 

なお,この度の最高裁判決は,傍論ではあるものの(結論を出すために必要不可欠な判示ではないものの),「成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない。」とも述べています。

これまでの民法の通説では,成年後見人は,当然のように民法714条1項の監督義務者に該当すると考えられてきました。

私の個人的な意見ですが,この度の最高裁判決は,成年後見人や同居の親族が,自らが責任を負うことを危惧するあまり,精神障害を有しておられる方の自由を不必要に制限することを防ぐという意味で大変意味のあるものだと思っています。

 

ただ,そうなると問題なのは,被害者の方の救済です。

すなわち,精神障害を有しておられる方が第三者の権利や利益を侵害してしまった場合,責任をとる者がいないということになりかねません。

これについては,国が補償する等の新たな制度の構築が必要なのではないかと思います。


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